白い粉体(チョーキング)

毎朝の日課。

 

朝の食事の前にいつもの狭い通路を抜けていくと、

 

必ずといっていいほど僕の背中にいつも同じ壁がぶつかってくる。

 

グレーと白の天然の毛皮、一着しかない最高級のスーツの背中に

 

スワァーっとついた白墨のような白い粉体が朝の一時を不快にさせる。

 

ゴシゴシ、ブルブル、ゴシゴシ、パタパタ。

 

 

今日はいつもの風景が違った。

 

朝からいつもの狭い通路にカンカン、カンカン金属音が鳴り響く。

 

僕はその金属音にまぎれながら気づかれないようにそっとくぐり抜けていくと、

 

ヘルメットをかぶったおじさんが隣の山口のおじいちゃんにこう言った。

 

『壁の色は薄いベージュがいいですよ。きっとお気に召しますよ。』

 

『そぉかぁ。じゃベージュにするかのぉ。』

 

 

(今日から山口さんちは塗装工事なんだ。きれいになれよ)

 

 

僕は鼻を上向きにして臭いを嗅いだ。そして僕の一張羅を繕い始めた。

 

NEC_4916

 

(法人営業部 杉山)